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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5445号 判決 2000年12月28日

控訴人 株式会社A田

右代表者代表取締役 B野松夫

右訴訟代理人弁護士 賀集唱

同 松尾翼

同 志賀剛一

同 森島庸介

同 松野豊

同 加藤君人

同 森田貴英

同 石原弘隆

被控訴人 C山都市開発株式会社

右代表者代表取締役 D川竹夫

右訴訟代理人弁護士 長野源信

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の各土地につき、同別紙登記目録(一)記載の各登記の抹消を請求する権利を放棄せよ。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  主文第一、二項と同旨

2  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)についての同別紙登記目録(二)記載の各登記(以下「本件予告登記」という。)の抹消嘱託について、同登記目録(一)記載の登記(以下、同登記目録の一及び二を「E原の所有権移転登記」と、同三を「C川住宅の所有権移転登記」という。)の抹消を請求する権利を放棄する手続をせよ(当審で追加した請求1)。

3  被控訴人は、C川住宅株式会社(以下「C川住宅」という。)に対し、C川住宅の所有権移転登記の抹消を請求する権利が存在しないこと、及び、E原梅夫(以下「E原」という。)に対し、E原の所有権移転登記の抹消を請求する権利が存在しないことを、それぞれ確認する(当審で追加した請求2)。

4  控訴人は、被控訴人に対し、別紙登記目録(三)記載の登記を抹消する義務が存在しないことを確認する(当審で追加した請求3)。(主文第二項の請求及び右2ないし4の各請求はいずれも選択的請求である。)

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人が当審で追加した請求をいずれも棄却する。

第二事案の概要

本件は、本件各土地を競落した控訴人が、不動産登記簿上の前所有者であるC川住宅及びE原と、右C川住宅及びE原に対し各所有権移転登記抹消登記を命ずる確定判決を有する被控訴人に対し、右土地について所有権の確認を求めるとともに、被控訴人に対し、所有権に基づいて、C川住宅及びE原の右各所有権移転登記の抹消を請求する権利を放棄する旨の意思表示を求めたところ、原審が所有権確認請求を認容したものの、右所有権移転登記の抹消を求める権利を放棄する旨の意思表示を求める請求を棄却したため、控訴人が右敗訴部分を不服として控訴した事案である。

右所有権移転登記の抹消を求める権利を放棄する旨の意思表示を求める請求は、被控訴人がC川住宅及びE原に対し同人らの各所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起したことに伴って本件予告登記が経由され、被告であるC川住宅及びE原において適式の呼出しを受けながら答弁書その他の準備書面も提出せず、口頭弁論期日に出頭しなかったため、民事訴訟法の規定に基づいて被控訴人の主張する請求原因事実を自白したものとみなされて、被控訴人勝訴の判決が言い渡され、これが確定して終了したが、その後も抹消されないままになっている本件予告登記の抹消を得ることを目的とするものであり、控訴人は当審において前記第一の一の2ないし4記載の各請求を選択的請求として追加した。

本件訴訟における主要な争点は、右のような事実関係の下で、控訴人が本件予告登記の抹消を得るために、本件各土地の所有権に基づいて、被控訴人に対し、前記請求の趣旨記載のとおりの各請求をすることができるか否かであり、争点に関する当事者双方の主張は、控訴人の当審における追加主張とこれに対する被控訴人の反論を次のとおり付加する他、原判決事実摘示のとおり(ただし、次のとおり改訂する。)であるから、これを引用する。

一  原判決書三頁八行目の「買い受けた」を「買い受け、同月一六日所有権移転登記を受けた」に改める。

二  控訴人の当審における追加主張

1  所有権に基づく物権的請求権の一つとして登記抹消請求権があることは実務上争いがなく、不動産登記法一四六条一項(以下「不動産登記法」を「法」といい、単に条文のみをもって記載する。)は、「抹消ニ付キ利害ノ関係ヲ有スル第三者アルトキハ申請書ニ其承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルコトヲ要ス」と規定しているので、抹消につき登記上利害を有する第三者があるときはその第三者に登記抹消の承諾を請求することができることもまた明らかである。これに対し、一四五条二項には「確定シタル登記ノ抹消又ハ回復ヲ請求スル権利ヲ放棄シタルコト」とあるだけで、一四六条一項のように「之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判」という文言はない。しかし、物権的請求権とは物権の内容の実現が妨げられ又は妨げられるおそれがある場合に、物権をもつ者が、その事態を生ぜしめている者に対し、その妨害を除去又は予防するのに必要な行為を請求できる権利のことであるから、一四五条二項に権利放棄の意思表示を求めることができる旨が規定されていないからといってこれが否定されることにはならず、物権の内容の完全な実現に対する妨害を除去する行為として必要なものであればこれを請求することができるのが実体法上の物権的請求権の正しい理解である。

2  そして、一四五条二項によると、裁判所書記官は「確定シタル登記ノ抹消又ハ回復ヲ請求スル権利ヲ放棄シタルコトヲ証スル書面」の提出を受けた場合でなければ予告登記の抹消の嘱託をすることができないから、控訴人が本件各土地の所有権の内容の完全な実現を可能ならしめるためには被控訴人の「権利放棄の意思表示」が不可欠である。

3  別件訴訟の確定した欠席判決によれば被控訴人のC川住宅及びE原に対する登記抹消請求権は所有権に基づく妨害排除請求権であり、物権的請求権である。物権的請求権は物権と運命を共にし、物権の存在する限り不断にこれから派生し、それが消滅するという性質の権利ではないから、物権的請求権に基づく妨害排除請求権について権利放棄という観念を入れる余地はない。したがって、この場合に被控訴人が行う権利放棄の意思表示とは当該時点において登記抹消請求権が存在しないことを知らせる観念の通知にほかならず(その点では一四五条二項の「権利の放棄」という文言は正しくない。)、右通知をすることにより被控訴人の財産に増減が生じることはない。

4  以上の点からすれば、被控訴人に登記抹消請求権の放棄の意思表示を求める控訴人の請求は認容されるべきである。

5  控訴人が当審で追加した請求1は、登記請求権の放棄の意思表示について、それが裁判所書記官に対し予告登記の抹消の嘱託をするためのものであることを明確にしているものであり、当審で追加した請求2、3は、控訴人の本件各土地の所有権が認められる以上、被控訴人の本件各土地の所有権も、これに基づくC川住宅及びE原に対する登記抹消請求権も成立する余地がないので、そのことを確認するための請求である。

三  被控訴人の反論

1  一四五条二項は平成五年法律第二二号により追加された規定であり、権利放棄の意思表示が任意にされない場合には予告登記が残存することを予定して立法化されている。したがって、本件予告登記の処理については控訴人と被控訴人とが話し合って解決すべきであって、裁判手続により権利放棄の意思表示を請求することは許されない。

2  控訴人は被控訴人に融資をして高額で不動産を購入させた上、競売手続により右不動産を廉価で取得している。これは、競売制度を濫用した暴利行為であり、憲法二九条、一一条、一三条に違反し、民法一条にも違反する。

3  控訴人の自己競落は弁護士法七三条に違反し、権利を濫用するものである。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人が被控訴人に対し本件各土地につきE原及びC川住宅の所有権移転登記の各抹消を求める権利を放棄する旨の意思表示を求める請求は理由があるものと判断する。その理由は以下のとおりである。

一  控訴人の本件各土地の所有権取得

控訴人は競売手続により本件各土地の所有権を取得したものであり、その所有権を被控訴人に対抗することができるものであることは、原判決書六頁八行目から同頁一一行目までに説示のとおりであるから右記載を引用する(被控訴人は、原判決が控訴人の本件各土地の所有権確認請求を認容した部分について不服の申立てをしていない。)。

二  本件予告登記の存在

本件各土地について、平成九年二月二一日、被控訴人がE原及びC川住宅を被告として、両名の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴え提起を原因として、本件予告登記がされ、これが現在もそのまま存在し、控訴人の所有権の妨害となっていることは当事者間に争いがない。

三  控訴人が本件予告登記の抹消を得るために、被控訴人に対し、E原及びC川住宅の所有権移転登記の抹消を求める権利を放棄する旨の意思表示を求めることができるか否か

1  まず、予告登記に関する法の規定について検討する。

予告登記は、登記原因の無効又は取消しによる登記の抹消又は回復の訴えが提起されたことを公示することにより、第三者に対し不測の損害を被るおそれがあることを警告することを目的とする登記であり、右抹消又は回復の訴えを提起した者が勝訴し、これに基づいて登記の抹消又は回復がされた場合には、その使命を終え、登記官の職権によりこれが抹消されることになる(一四五条三項)。また、これとは逆に、訴えを提起した者が敗訴したり、訴えを取り下げたりすることで右訴えによる登記の抹消又は回復の可能性がなくなった場合にも、予告登記を存置させる必要はないので裁判所書記官からの嘱託により抹消されることになる(同条一項)。

このような予告登記制度の趣旨、目的及び内容に照らすと、たとえ登記原因の無効又は取消しによる登記の抹消又は回復の訴えを提起した者が勝訴し登記請求権が認められた場合であっても、その後にその者が請求権の放棄その他の事由により右請求権を失ったときは、右訴えによる登記の抹消又は回復の可能性が失われ第三者が不測の損害を被る可能性はなくなるのであるから、予告登記は目的を失いこれを存続させる必要はないことになる道理である。そして勝訴した者は直ちに判決の内容に従った登記申請手続を行うと考えるのが合理的であって、その者がこれを放置しておくことは通常予測すべきことではない。右のような事情から、法はこれを前提として予告登記の抹消に関する手続を定め、そのまま予告登記が放置される場合については規定を置かなかったものと考えられる。ところが、現実には、勝訴した者が種々の事情から直ちに登記手続をしないまま放置し、そのために予告登記が長期間抹消されないまま経過することがあり、なかでも、勝訴した者がその後右請求権を失いもはやその者において判決に従った登記手続を行うことができなくなることも起こり得る。そうすると、予告登記が抹消されないままになってしまうことになり、この点の不備を補うために、平成五年法律第二二号により、登記権利者の権利放棄を証する書面が裁判所に提出された場合には裁判所書記官の嘱託により予告登記を抹消すべきことを規定した一四五条二項が追加されるに至ったものである(従前の一四五条二項は、同条三項に繰り下げられた。)。右のような経緯に照らして考えると、右にいう「権利放棄を証する書面」とは、確定した登記請求権を登記権利者が放棄したことが明らかにされている書面であれば足りるのであって、必ずしも登記権利者が任意に作成した書面に限られるものではないと解するのが相当である。

そして、法は、予告登記の抹消方法について、一四五条のほかにはなにも定めを置いていない。

2  そこで、控訴人が登記権利者たる被控訴人に対し権利放棄の意思表示を求めることができるか否かについて検討する。

被控訴人がE原及びC川住宅に対しそれぞれ所有権移転登記の抹消を求める権利を有することは別件訴訟において確定しているのであるが、前記のとおり、本件各土地については競売手続により控訴人が所有権を取得し、控訴人に対しては被控訴人は実体法上本件各土地の所有権を対抗することができない立場にあるのであるから、もはや被控訴人は控訴人との関係でE原の所有権移転登記及びC川住宅の所有権移転登記についてその抹消を得ることはできないものというべきである。そうすると、もはや本件各予告登記がなくても第三者に不測の損害を被らせるおそれがあるとはいいがたく、まして被控訴人としてはこれを維持しておかなければならない理由は見出しがたく、本件各土地に経由されている本件予告登記は、いずれもその目的を失い、これを維持すべき理由がなくなったものといわなければならない。

このような場合、目的を失った予告登記は土地の所有者にとっては有害かつ無用な登記であり、事実上土地の所有権を妨害するものというべきであり、これに対して先に所有権移転登記の抹消登記請求訴訟において勝訴した者にはもはや右登記の抹消の予告登記を維持すべき格別の利益を見出すことはできないというべきである。それにもかかわらず本件各土地については前記のとおり本件予告登記はそのまま放置され、被控訴人は控訴人に対しE原及びC川住宅に対する登記請求権を放棄する旨の書面の作成にも応じないため、控訴人において一四五条二項の手続に従った予告登記の抹消を受けられないでいることが明らかである。

3  以上述べたところからすると、不動産登記法上予告登記の抹消方法については一四五条二項のほかには定めがなく、控訴人が本件予告登記の抹消を得るためには、一四五条二項が定める「権利放棄を証する書面」、すなわち被控訴人がE原及びC川住宅の所有権移転登記の抹消を求める権利を放棄したことを証する書面を得ることが不可欠であるといわなければならず、それにもかかわらず被控訴人が任意にその作成に応じない場合には、控訴人は被控訴人に対し右権利放棄の意思表示を訴求するほかはないということになる。そして、物権的請求権は物権の内容を完全ならしめることを要求する権利であって、予めその内容が定まっているものではなく、それぞれの場面において物権の内容を完全ならしめることを妨げている他人に対し、物権の内容を完全ならしめるために必要な行為をすることを求めることができるものと解されるところ、本件各予告登記は被控訴人がE原及びC川住宅に対し本件各土地についてその所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟を提起したことから、裁判所書記官の嘱託により登記されたものであり、本件予告登記はその目的を失った後も放置されていることは前記のとおりである。そうすると、控訴人は、本件各土地の所有権に基づく物権的請求権を根拠として、右のとおり本件予告登記を現出させ、これを放置することにより控訴人の本件土地所有権の完全な内容を妨げている被控訴人に対し、右所有権移転登記の抹消登記請求権を放棄する旨の意思表示をすることを求めることができるものと解するのが相当である。

被控訴人は別件訴訟においてE原及びC川住宅に対して確定の勝訴判決を得ていること前記のとおりであるが、被控訴人は本件各土地の所有権を控訴人に対抗することができないことも前記のとおりであって、実体法上控訴人との関係でE原及びC川住宅の所有権移転登記の抹消を得ることができる立場にはないのであるから、被控訴人に右のとおり権利放棄の意思表示を命ずることは被控訴人に実体法上の権利が存在しないことを実質的に明らかにするものにすぎないというべきであり、したがって被控訴人がE原及びC川住宅に対し前記の確定勝訴判決を得ていることは、右のとおり控訴人が被控訴人に対し権利放棄の意思表示を求めることの妨げとなるべきものではないというべきである。

右の点に関し、被控訴人は、一四五条二項は「権利放棄の意思表示」が任意になされない場合に予告登記が残存することを予定して立法化されたものであると主張するが、一四五条二項がそのような趣旨の下に改正されたものであると認めるに足りる証拠はなく、被控訴人の右主張は独自の見解に基づくものであって、採用することができない。

4  なお、前記のとおり一四五条二項が定める「権利放棄を証する書面」とは当該権利を放棄したことが明らかにされたものであれば足り、権利者が任意に作成した書面には限られないものとすれば、例えば、本件のように控訴人と被控訴人との間に所有権確認判決等被控訴人が控訴人との間において被控訴人の有する登記抹消請求権を実現することができないことになることが明らかに認められる書面でも足り、控訴人としては、裁判所書記官に対し右の所有権確認の確定判決等の正本を提出すれば、裁判所書記官は登記官に対し一四五条二項により当該予告登記の抹消を嘱託すべきことになり、これにより控訴人は所期の目的を達することができるとすることも考えられないではない。しかし、右のような方法によって所期の目的を達することができるとすることが考えられるとしても、右に述べたとおり、被控訴人の行為により控訴人の所有権の完全な内容が妨げられているのであるから、前記のとおり一四五条二項の趣旨を考えれば、実体法上右のように控訴人が被控訴人に対し所有権に基づいて本件権利放棄の意思表示を求める権利を認めることの妨げになるものとはいえない(右のような控訴人と被控訴人との間の所有権確認判決が右の「権利放棄を証する書面」に当たるとする解釈が実務上確立しているとはいえず、現に裁判所書記官がこれに応じていないことは当裁判所に顕著であり、控訴人としては、なお被控訴人の「権利放棄を証する書面」を必要とすることに変わりはないといえる。)。

三  被控訴人の反論について

1  被控訴人の一四五条二項に関する見解が独自もので採用することができないことは前示のとおりである。

2  そのほか被控訴人は、控訴人が被控訴人に融資をして高額で不動産を購入させた上、競売手続によりこれを廉価で取得しているとして、これが競売制度を濫用した暴利行為であり、憲法二九条、一一条、一三条及び民法一条に違反すると主張する。しかし、被控訴人が控訴人からの融資金を得て不動産を高額で取得したことがあるとしても、控訴人がその後の地価の下落や被控訴人の返済不能を予測し暴利を目的として右融資をしたと認めるに足りる証拠はなく、また競売制度を利用して融資金の回収を図ることは正当な権利の行使として是認されるべきものであるから、これが憲法二九条、一一条、一三条及び民法一条に違反するということはできず、被控訴人の右主張は採用することができない。

3  被控訴人は控訴人の自己競落が弁護士法七三条に違反すると主張する。その趣旨は必ずしも明瞭ではないが、同条は他人の権利を譲り受けて訴訟等の方法によりその権利を実行することを業とすることを禁止する規定であるから、被控訴人は控訴人が担保権を設定した土地を自ら競売により取得して訴訟等により権利行使することを業としているとして、これが弁護士法七三条に違反すると主張しているように解される。しかし、担保権を設定した土地を自ら競落することは民事執行法上禁止されておらず、競売制度により不動産の所有権を取得した者がその所有権を行使することは、民事執行法上当然に予定されていることであるから、たとえこれを業とするものであっても何ら弁護士法七三条に違反するものとはいえない。

また、被控訴人は控訴人の本件請求が権利の濫用であると主張する。しかし本件全証拠によってもこれを認めることはできない。かえって、弁論の全趣旨によれば、E原は、長期間同時に被控訴人とC川住宅の代表者を務めていたこと、被控訴人は、控訴人が本件各土地の所有権が控訴人に帰属することの確認を求めた本件訴訟において、被控訴人がE原及びC川住宅に対し同人らの各所有権移転登記の抹消登記手続を求めた訴訟において主張した事実を一切主張していないこと、右抹消登記手続を求めた訴訟においてE原及びC川住宅は欠席しており、同種の別件訴訟(東京地方裁判所平成一一年ワ第二二一四号土地所有権確認請求事件)でも、残存している予告登記の原因となった被控訴人のC川住宅に対する所有権移転登記抹消登記手続請求事件においてC川住宅は被控訴人の請求を認諾していること、被控訴人については本件以外にも予告登記をめぐって複数の同種事件が係属していることが認められ、これらの事情に照らしてみると、本件予告登記は、被控訴人が予告登記が付されることにより執行妨害となることを意図して、E原及びC川住宅に対する前記訴えを提起したことによるものではないかとも窺われるのである。右の事情に照らしてみても、被控訴人の権利濫用の主張は到底採用することができない。

第四結論

よって、原判決中控訴人の被控訴人に対し本件各不動産についてE原及びC川住宅の所有権移転登記の抹消を請求する権利を放棄する旨の意思表示を求める請求を棄却した部分は不当であるからこれを取り消して、控訴人の右請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 近藤壽邦 川口代志子)

<以下省略>

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